PROPS プロトーク[第5回]「建築・不動産と情報技術」事前レビュー

レビュー/再録


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執筆者:森村佳浩/@orihihs0y(住宅系不動産会社/PROPS第5回コーディネーター)

「PROPS プロトーク」シリーズ第5回では、「建築・不動産と情報技術」プロジェクトの見える化と合意形成をテーマにします。

建築・不動産プロジェクトの見える化/効率化を図り、合意形成を促すツールとしての情報技術の可能性を探ります。 情報技術の進展により、(1)これまで不可視だったものが認識できるようになり、(2)情報をシェアすることが容易になりました。

不可視なものを認識できるようになったことで(=見える化)、建築の世界では風解析など、様々なシュミレーションが容易にできるようになり、設計に活かされることが増えてきています。また設備配管を見える化することで、設計段階での不整合を発見し、事前に解消することも行われています。また不動産の世界では、 不動産の評価は、駅からの距離、建物の構造、地盤のよさ、熱環境、管理の質、スーパーや病院、保育園からの距離まで、さまざまな指標が絡んでおり、この膨大な物件情報を整理、紹介するWebサイトがあります。これも一つの見える化と捉えることができるでしょう。このように情報技術の発展により、建築・不動産の世界では、それぞれで、情報の見える化を通して、様々な取り組みが行われています。

一方で、情報技術の発展により、情報のシェアが容易になりました。SNSを通して、多くの情報が秒単位でシェアされていく、そんな時代を私たちは生きています。情報技術のオープン性は、私たちの生活を大きく変えています。しかし、建築・不動産の世界では、各々のフェーズで情報が閉じてしまっているのが現状と言えるでしょう。情報を設計や仲介、管理といった限定的なフェイズで閉じるのではなく、企画から運用まで一元化して活用するにはどうしたらいいのでしょうか。発注、設計、施工、運用、管理、はてはユーザまで、さまざまな立場で不動産(土地・建物)を活用するツールとして、情報技術はどのように生かされうるのでしょうか。各フェーズで情報がシェアされてこなかった背景には、様々な要因が考えられますが(いわゆる大人の事情ですね)、情報を容易にシェアすることが可能になったときに、各フェーズで合意形成がどのように可能になっていくでしょうか。

これまで、建築や不動産の世界では、それぞれで情報の見える化、シェアの可能性について議論されてきたと思います。第5回では、こうした議論を横断し、これまでの知見を整理し、新たな可能性を発見するための道筋を示したいと思います。そこで、今回は、企画から運用まで、情報技術を駆使しながら実務をこなすプロ4者に登壇していただき、率直に語っていただきます!

4人のゲストそれぞれの位置づけを示した図。合意形成をおこなう相手がどこ(社内/社外/社会/市場)にいるのか、そして土地や建物にまつわる情報の流れがどのようになっているのかを、上の図にまとめています。

 

ゲスト登壇者紹介

羽鳥達也 (建築設計/日建設計 設計部 主管)

1973年生まれ。武蔵工業大学(現・東京都市大学)大学院修了。日建設計で『神保町シアタービル』『ソニーシティ大崎』等の設計を担当。東京都市大学、東京大学非常勤講師。日建設計ボランティア部。大規模プロジェクトや先進的な環境配慮型の建築の設計を通じ、気流、温熱環境、避難など種々のシミュレーションを活用した、多角的なプレゼンテーションによるコンセンサス形成を行って来た経験を踏まえ「逃げ地図」を開発。「逃げ地図」は避難地図としての利用のみならず、土地のリスクを可視化し、避難を意識した街づくりのための合意形成を促すプラットフォームとして、復興地のみならず未災地からも注目を集めている。

羽鳥さんからは、設計者の立場から実務や、「逃げ地図」の活動から感じられている情報技術の可能性と問題点について、率直にお話していただきたいと思います。羽鳥さんからは、今回のテーマに関して以下のような投げかけをツイッター(@_HATORI_)にていただいています。

 “合意形成可能かというより、合意形成の質がどの様に変わる可能性があるのか。合意形成はITなんかない時代でも、それこそ有史以前から連綿と続いてきた行為。我々の目の前にある都市や建築は、基本的に全て、合意、契約の内容が顕在化したもので、計画の判断の質がそれを決めているとも言えます。判断の質が変わらなければ、都市や建築はその質を変えることはないでしょう。情報技術を、目や耳といった情報収集する我々の身体の拡張だと捉えれば、それを用いることで、判断の質を変えられる可能性は十分にある。これまで不可知だったものを、認知可能にすることによって、世界に対する認識を更新して、作るべきものの考えも改めてきたが、その普遍的な流れのひとつです。それを計画する建築とそれを経済的な価値に接続する不動産とを横断して考えるということが今回のテーマではないでしょうか。”(*2013.3.13羽鳥さんのツイートより。筆者が一部改変)

「合意形成の質の変化」。今回のテーマを考えるあたり入り口になりそうなキーワードです。当日の議論での展開が楽しみです。逃げ地図のデモンストレーションも行っていただきます。

○関連リンク
・今回デモンストレーションしていただく「逃げ地図」のHPです。「逃げ地図」についてよく分かるHPになっています。
http://www.nigechizuproject.com/

・Hondaのスマートフォン用アプリ「インターナビ・リンク」と「Honda Moto LINC(ホンダ モト・リンク)」(以下、インターナビ関連アプリ)に「逃げ地図」を表示する機能などが3月末に追加されます。
http://www.honda.co.jp/news/2013/4130301.html

・PROPSのメンバーである山崎泰寛氏とのメール対談です。「逃げ地図」の話題を通して、逃げ地図とBIMの関係が浮かび上がるスリリングな大変面白い対談となっていますので、ぜひご覧ください。
http://aar.art-it.asia/u/admin_edit1/qLFmOvb4BWKMtGnglo3f

○関連書籍
・建築雑誌2011年8月号(社団法人日本建築学会)において、座談会「デジタルデータというプラットフォーム」にて、羽鳥さんが登壇されているものが以下のリンクから読めます。情報をどのように設計において取り扱うべきか考えさせられる座談会になっています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008686683

・ツイッターアカウント
https://twitter.com/_HATORI_

 

永島洋一  (ファシリティマネジャー/CTCテクノロジー)

1979年生まれ。大学で経営学を学び、卒業後ニチイ学館総務部に勤務。現在CTCテクノロジーネットワークエンジニアリング部にて法人向けにワークスタイルに関するコンサルティング事業やインフラ構築を手がける。転職した当初はオフィス構築におけるプロジェクトマネージャーを主務としていたがインハウスの経験を活かして発注者の目線からオフィス、サーバールームの計画段階におけるコンサルティング業務も担当している。

永島さんが勤務されているCTCテクノロジーでは「ITFMサービス」を提供されています。「ITFMサービス」とは、企業内で部署ごとに個別に管理、機能していることが多い、ITインフラやオフィスファシリティ、機密情報を「IT戦略」、「FM」、「情報セキュリティ戦略」と戦略化し、連動させることで、経営戦略とする、戦略型のソリューションサービスです。
また既存のオフィスの消費電力を見える化するなど、オフィス運営などで発生するコストを数値化することで、コストダウンに最適なソリューションを提案されています。オフィスを見た目だけリニューアルするのではなく、隠れたニーズやコストを見える化することで、それぞれの企業のワークスタイルにあったオフィス環境を構築することで、生産性の向上やコストの削減を実現されています。
永島さんからは、こうしたお仕事を通じて、どういった情報が見える化されることで、合意形成が進みやすくなるのか、FMの立場からお話していただければと思います。

○関連リンク
・永島さんが勤務されているCTCテクノロジーが提供されているサービスが紹介されています。
http://www.ctct.co.jp/service/itfacility/index.html

○関連書籍
・ファシリティマネジメント協会より出版している書籍の紹介です。
http://www.jfma.or.jp/books/index.html

 

山口雄司  (システムアナリスト/シンクタンク、この後ニート)

1980年生まれ。大阪大学工学部建築工学専攻修了。シンクタンクのシステムエンジニアとして、不動産・流通業界等のシステム開発・維持に関わる。退職後、ソーシャル系不動産サイト設立の準備中。築40年のマンションをリノベーションして暮らしており、管理組合の代表経験もある。

山口さんはマンションのプロパティマネジメントに関するシステム開発に携わるなど、開発側の論理と寄り添いながら仕事をされてきました。(なのでデベロッパーの“大人の事情”もよくご存知です。)建築・不動産に関する、川上から川下の各フェーズで、ステークホルダーやシステムの発注者は何を考えているのか。設計〜施工におさまらない、お金と情報の流れをいくつかの事例をふまえて、お話いただきます。さらに現在、ソーシャル系不動産サイトの設立を準備されており、海外の不動産サイトにも詳しく、そうした事例を紹介しながら、日本ではなぜ、各フェーズで断絶が起きるのか、問題点を示していただきます。
またシステムの開発者として、ビックデータの仕組みや不動産の世界の可能性、BIMなどが専門分野をなぜ越えられないのか、情報技術のプロとして、コメント、解説いただければと思います。

○関連リンク
・山口さんご自宅の中古マンションのリノベーションの記録。
http://710.gs
・アメリカの不動産仲介サイトのおすすめ
地図をベースとしたものが多く、地域の価値や雰囲気もよくわかります。また住宅やオフィスのこれまでの内装や使われ方がわかる写真も載せており、そのデザインや使われ方も価値として感じられます。
Zillow
http://www.zillow.com/
Redfin
http://www.redfin.com/
42floors
http://42floors.com/
・不動産クラウドファンディングサイト
popularise(アメリカ)
https://popularise.com
Fundrise(アメリカ)
https://fundrise.com/
Brickstarter(イギリス、公共空間向け)
http://spacehive.com/

 

正光俊夫  (テクニカルコンサルタント/オートデスク株式会社)

1978年福井県生まれ。高校卒業後アメリカに渡り、大学を転々としながらCAD/CAM、CMを学び、最終的にミシガン大学工学部都市環境工学科にてConstruction Engineering and Managementを専攻。大成建設株式会社建築部にて国内の現場監督、海外の大型プロジェクト管理、建築本部技術部を経て、オートデスク株式会社コンサルティング本部に転職。アブダビを始め、多くの海外のBIMプロジェクトに関わる。プロジェクト管理ソフトやBIMのようなIT技術を活用した建設プロジェクト管理を目指している。

正光さんは、前職での海外プロジェクトにおいて米国系コンサルティング会社が担当するプロジェクトマネジメントを目の当たりにされました。工程の管理や、現場に行き交う資料の管理、意思決定プロセスなど、明確にルールが定められていたそうです。その頃から、様々な建設関係のITツールを追いかけ始められ、実際にプロジェクトで使用されて来られました。その中の一つにBIMもありました。
正光さんは「情報をどう結びつけて使うかがBIM」と発言されています。様々な最新ツールを使ってプロジェクトを進めることが一見、BIMのように見える/BIMだと思ってしまっていることがありますが、情報の流れに目を向け、情報がどのように受け渡され、他の情報と組み合わされ、次のフェーズに渡っていくか、現場で実際に経験されていたからこその視点だと感じました。
現場監督の経験や海外でのBIMプロジェクトの経験から、また現職のベンダー、コンサルティングの立場から、現場での情報技術に関する生の声をお話していただければと思います。

○関連リンク
・オートデスク社のHP
http://www.autodesk.co.jp/
○関連書籍
・建築学生のハローワーク
正光さんのこれまでの経歴について語られています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4395241182

ポスターができました。掲示や展開など、ご自由にご活用ください!