番外編@DESIGNEAST 04 「PROPSのこれまでとこれから」レビュー
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執筆者:山下健太郎/@ketru (建設マネジメント会社勤務・宿泊施設管理運営)
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定点から見えた変化
2013年9月16日。台風18号が浜松から本州に上陸し、内陸へ向けて走り抜けるのを見届けて、大阪市住之江区にあるクリエイティブセンター大阪(名村造船所跡地)ではDESIGNEAST 04が1時間遅れでその日のプログラムを開始した。
PROPSはこのイベントの中で、「PROPSのこれまでとこれから」というテーマを設定し、これまでの1年で開催してきた計5回のトークイベントを通して得られたものを運営スタッフが振り返るイベントを開催した。
「PROPS プロトーク」と銘打って開催してきた5回のトークイベントであるが、その初回は前年開催されたDESIGNEAST 03の中で、スピーカーズ・コーナーという全く同じフォーマットの場所からはじまったのだった。
私は前年、今年のどちらにもPROPSのスタッフとして参加させていただいたが、1年の区切りで同じ風景を見て、服飾や出版、工芸など、さまざまな形でデザインに関わる人達が会する独特の雰囲気には丸1年タイムスリップしてしまったのではないかと感じるほどの「変わらなさ」があった。
しかし器は変わらなくとも、これまで1年イベントを続けてきた中で、その質というものには変わったものがあるはずだ、なければ意味がないと思う気持ちが生まれ、意識の面でどのような違いを感じているのかということを考えざるをえなかった。この日登壇した運営メンバーも同じように感じたのではないかと思う。そういう意味で、サーキット方式で定点に戻ってきた事は意義があったのではないだろうか。
私が意識の面で感じた「違い」とはなにか、というと「業界を横断するイベント」という言葉のイメージがより明確になったということだ。第1回のプロトーク「ソーシャル・ローカル・ビジネス」での討議の中で現れた課題として今回の振り返りの中で取り上げられていたが、このPROPS プロトークを開催した始めの頃は、「建築」と「不動産」という人々の暮らしを支えながら断絶のある両方の業界の間をつなぐにはどのような課題に取り組むべきか、という意思が強かったように思う。
要は、「業界」の方を向いた議論をしようとしていたのだ。
そのような思惑もあり、第1回では建築家、不動産ディベロッパー、そしてその両側の課題をあぶり出す役割として社会学者という三者というバランスでの討議になった。その中で、DESIGNEASTが開催された地元・大阪での事例を元に、地方に残る古い建築の魅力を再び見出してにぎわいを取り戻すにはどのようにすればよいかということについて課題を探った。
そこでは実際ににぎわいが取り戻されているということ、また改めて地域が活発化することについてどのような指標をもとに考えればよいだろうかという議論が進められたが、その話の行き先が「建築」や「不動産」という業界の中でできることは何か?という方向になってしまったという反省を述べていた。
この点で見えるのは、この課題の足もとにある「古い建築を見直すことで本当に街ににぎわいが取り戻されるの?それは普通に街に暮らしている人にとって良い影響を与えているの?」という疑問をもっと掘り下げて、会場に集まった人たちにとって有益な話ができなかったか、という反省なのではないかと感じる。その感覚は、さまざまな立場からデザインに関わる人が集まるDESIGNEASTという場所だったからこそ感じられたのではないか。
そこから、PROPS プロトークは明確に方針を変えた。どこの時点であったか明確ではないのだが、「土地と建物をめぐる業界横断型トークイベント」という言葉をかかげ出した。ここで重要なのは「土地と建物」という言葉である。
「不動産と建築」という業界の担い手のためのイベントではなく、この世界で暮らす誰にとっても大事であり、何らかの形で関わっている「土地と建物」を取り巻くさまざまな課題に対して先端的な試みを行っている方々の話を聞き、その課題がわれわれの日頃の暮らしにとってどのような障壁となっているかを考え、そして業界という意識を取り払って解決法を探ったり、新たな道を模索するきっかけになればよいという意識がより強まったのではないかと感じている。
その中で、各回のプロトークでのゲストを選ぶ際に非常に激しい議論を行ったことを森村氏が実感をもって振り返っていた。私自身も第3回はコーディネーターとして関わるなかで、その中にいる時は現実的にお話が聞けるかどうかということも議論したが、それよりも重要なこととして、自身が関わっている問題がどのような構造の下で起こっていて根本的な対処法を考えているか?という意味合いでトークイベントの「おもしろさ」について会話をしていたことを覚えている。
実際に動いている時は私自身がまだそこまで明確な言語化ができている状態ではなかったので、自分の働きとしては不十分だったなと感じるところはあるが、改めて振り返りの議論を聞いている中で、この1年の間に得られたものはこの「おもしろさ」とは何なのかと言う事を自ら語ることができる感覚なのかな、と感じたのだった。
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協働を生み出すイベントへ
第2回以降、単独での開催となったPROPS プロトークの参加者の分析からも、建築や不動産の業界とは直接関係のない方たちも興味を持って参加されていることが見て取ることができる。そして、今回の振り返りの中でも語られたことであるが、PROPSでのイベントをきっかけにして、新しいプロジェクトが生まれていることが大きな成果だと言えるだろう。
それも、建築や不動産仲介のセミナーでよくある講師の与えるスキームにはめ込んで生み出される事業ではなく、参加者の特性を活かした事業の形が可能性として見えてくるという所に特徴があると言えるだろう。例えば、ITを活用して不動産取引のエージェントを紹介するという、これまでの建築・不動産の仕組みに足りなかった繋がりを補うような形が生まれようとしている(参考:バイヤーズエージェント仲介)。
また、第4回「マーケティング・レイティング」の回について振り返る中で、平塚氏が不動産流通にさまざまな立場から関わるスピーカーたちが協業して生まれた不動産活用の事例を聞き、真似をすれば簡単なプロジェクトぐらいならすぐできちゃいそうな気がしたという感想を持ち、実際に自ら事業を進めようとしているという事が印象に残っている。
このように、PROPSに参加するそれぞれのメンバーの興味や理想、専門性の持ち寄り方によって多様な場を生み出すプラットフォームになりうるのではないかという期待を感じている事が、このイベントが続けられる楽しさにつながっている。
そして、PROPSはスピーカー、運営メンバー、そしてオーディエンスという三者の役割を回ごとに変えながら参加できるイベントであるという指摘もされた。垣根が低い、というと低いレベルの話題を続けていいのか、と思われる方もいるかもしれないので語弊があるか。参加する人一人ひとりがこの三者の性質をを大事にし、育てていくものだと言うべきか。
スピーカーとして参加する中では自身の持つ専門性や経験から語られる「プロフェッショナル」な話が必要であり、運営メンバーとしてイベントを支える中では登壇者の持つ専門性を社会全体の中で位置づけて問題視する客観性が必要になるが、さらに土地や建物から離れられず、それでも土地や建物が持つ潜在的な力を信じているふつうの市民としてまっさらな目でイベントに参加できることを大事にする、ツイッター的なツッコミ精神を織り交ぜながら各回のトークイベントは作られてきた。
土地や建物のユーザー視点からの議論としては、例えば第5回「建築・不動産と情報技術」の中の議論で、これまでは土地や建物の情報を編集して利用しようとする人達は自分たちで情報を管理し編集しようという思いが強すぎて一般のユーザーにとって使いにくいものになってしまっていたが、そこを一般のユーザーが情報の編集ができ、自分たちが使いやすいようにカスタマイズできるような「編集しろ」を残す形へと洗練されてきているという事がプロジェクトの例をとって議論された。
先に挙げた三者の性質は誰もがそれぞれに持っているものだ。どれか一つだけを成長させるか、という事ではなくどれも大切にしなければいけないのだが、これまで建築・不動産のそれぞれの専門的な議論の中でこれらの三者の性質を同時に大切にした議論が深められてきたかというと大いに疑問がある。
自分の持つ専門性を社会の中にどう位置づけるか、そこに自負や悩みはあるか、素になって見てみるとおかしいぞと思う所、それぞれの立場から見ること語ることによってよりイベントで語られるべき事がより明確になっていくのではないかと感じる。そこにより意識的になることで、より多くの立場に立つメンバーを巻き込み、負荷を分散しつつも集中した議論ができる場になっていくのではないか。この点もPROPSの大きな特徴として、今後も育てていきたいところだ。
また今回の討議の中では、今後どのようにPROPSを継続していきたいのかというビジョンも示された。地方での課題を探り、また地方らしいゆるさを取り入れたいと言った事と、産官学のうち官、学の立場からの参加も求めて、課題解決型の議論を進めていきたいという納見氏の意見が印象に残った。
官・学の立場からの参加という事で言えば、行政や研究者の持つ具体的なデータをもって、課題を明確にすることは重要だと感じる。しかしそこで政策的なシステムを一気に変えるための提案をしようと考えるのは早計なのかもしれない。先に述べたように、PROPSの特徴は専門的な知識や経験を持つ実務者が集まりながらも、個々の課題に対するアクションはごつごつとした、いわゆる市井の人々の感覚で進められるものであり、そこに味わいを見だしているからだ。
例えば現在取りざたされているシェアハウスへの規制についても官の立場からは一律的な規制の基準を見出そうとしているが、そういう場面でPROPSのような、知識や経験を集約しながら個々のプロジェクトを動かすような場を感じてもらうことで、政策を柔軟に運用するために必要な感覚を磨いてもらう機会にもなるのではないだろうか。
さらにそこで、在野である私達も行政や研究に携わる方たちの持つ「土地と建物」への感じ方、思いというものを共有できると良いのではないだろうか。それらの感覚を共有することなしに、建築や不動産の流通・取引を支えるシステムの変革はできないだろう。地道な取り組みをしていく必要があると感じた。
とここまで、これまでのイベントの振り返りを中心にまとめてきたが、現在これまでのイベントの中で共有されてきた土地と建物に関わるキーワードをまとめ、アーカイブ化する作業が進んでいる。この作業の中から見えてくる新しいテーマから、新たなシリーズのイベントを開催することができ、そこで新しい繋がりが生まれ、土地と建物の可能性をより広く拡げられるような議論ができれば良いと思う。私もまた、PROPSで得た繋がりから私達が生きる場所をより価値あるものにしていきたいのだ。
(写真提供:PROPS、撮影:松原昌幹)
2014年2月7日