PROPS プロトーク [第2回] 開発・オペレーション|討議編(3)

レビュー/再録


2012年12月9日(日) に開催された「PROPS プロトーク [第2回] 開発・オペレーション」の討議について、ほぼ全文書き起こしを公開します! 討議はPROPSの用意した質問に基づいて進めたものです。Speaker:川原秀仁、中尾俊幸、net_heads、藤村龍至 Moderator:納見健悟、平塚 桂

Q3.開発の未来に対する戦略とは

施設を介した事業モデルの創造
川原

川原――モノ、事業、社会、経済など、すべてが変わりつづけています。たとえば日本にプロジェクト・ファイナンスがやってくるなんて、誰も想像もできませんでした。プロジェクト・ファイナンスとは、ファンドが典型です。わかりやすい例でいうとJ−REITなど、不動産投資ファンドがあります。それまではコーポレートファイナンスの世界で、官主導で色々なものをコントロールできました。たとえば積極的財政支出やゼロ金利政策、量的緩和などの政策を取れたんです。で、いざそれをやってみると今度はプロジェクト・ファイナンスが潤いました。その流れはリーマンショックで傾いてしまったのですが、施設を資産、経済体、社会構造体で捉えるという考え方はポジティブな文脈で残りました。そこで企業も変わり、ものづくり単体ではなく、営みづくり、社会貢献、国家貢献という文脈で事業を考えるようになりました。そんな変わり続ける事業の一歩先を想像し、事業モデルをつくり込んで、実際の建設プロジェクトと合致させることができれば新たな展開ができるのではないかと思っています。

net_heads

net_heads――これまでの川原さんのお話に絡め、ベトナムにおける日本の鉄道会社の進出のことを紹介します。ベトナムは社会主義国で、インフラは旧ソ連の五カ年計画によってかなり整備されています。市場環境が整っており、無理矢理ハコモノをつくっても成立してしまう。(※)東急電鉄の進出の理由はそこにあるのではないかと思っています。それに対して(※)京阪電鉄は北のハノイで商業施設を計画しています。ハノイは中国の影響を受け、歴史的に形成された碁盤目状の魅力的な市街地を持っています。おそらく京阪が考えているのは、鉄道と周辺施設をセットで持っていくことです。川原さんがお話をされた事業と共に施設を持って行くという方向に近いのは京阪の方法で、私もこちらがよいと感じています。

※東急電鉄はベトナム南部ホーチミン市近郊のビンズン省で高層住宅、オフィス、商業・娯楽施設の整備とバス事業の計画を進めている。京阪電鉄はベトナム北部のハノイで商業施設の建設と運営を行うと2010年12月に報じられ、ハノイ都市鉄道5号線の調査にも関与した。日本政府が成長戦略の中に位置づける「パッケージ型インフラ輸出」にも重なる取り組み。

討議の前に行われたnet_headsさんによるプレゼンテーション資料「鉄道事業者の動向について
~国内外の事例の紹介~」。東急/京阪の海外進出事例の紹介と比較もなされた。

高度利用とインフラ改善
net_heads

また私個人としては、未来の開発に対して重要な視点は、高度利用とインフラ改善だと感じています。高度利用とは、簡単にいえば駅前再開発です。インフラについてですが、私は2年ほど前まで第二京阪関連の仕事をしておりました。沿線の市町村は区画整理事業として交差点改良をはじめとする交通関係のインフラ整備を行っていました。それまで凍結されてた都市計画道路ができるなど、沿線の市町村はかなり恩恵を受けました。主体となるのは地権者による土地区画整理事業なのですが、ショッピングセンターを誘致し、地代で開発費用を捻出する形態もみられました。つまり官と民の関係でいうと、第二京阪は官が何も考えずに引っ張っていった都市計画で、時を経ても当初の計画を愚直に遂行しようとしたものです。それに対して民間が自衛的な行動を取り、区画整理事業のような制度を活用して生活基盤を切り開いてきたという流れが出てきたのです。

藤村

藤村――先ほどから私が話題に出している新幹線輸出というのは、ブラジルやインドなど大陸でも話があるのですが、意味を持つのはアジアの小さな国、島国に限られるのではないかと。日本は小さな島国の新幹線をつくって列島改造を果たし世界の仲間入りをした国なので、その実績は島国では応用可能でも、中国やインド、ブラジルなどの大陸では応用できないのではないかと思います。たとえば中国で日建設計が売りにしているのは、地下鉄につながったデパートとオフィスが複合した建物だそうです。それができるのは彼ら(日建)だからだと現地の方がおっしゃっていましたが、確かにヒカリエも約1300%、丸ビルも1500%近い容積率があり、そこまでの容積率を地下鉄にピタッと接続して上に積んでいくという建物は世界中探してもあまりない。香港などいくつかはありますが、NYにも、ロンドンにもありません。先ほど川原さんがおっしゃったような新しい景観をつくってしまうというのは、日本の十八番なんですよね。商業施設がセットになった鉄道を中心とする都市開発、しかも島国の高速鉄道というのは海外にないので、日本は輸出すべきだと思う。なぜか。国内にそのような仕事はないからです。鉄道を中心としたコンパクトな都市開発という日本が戦後の列島改造のパラダイムで培ってきた技術とともに国外で市場を開拓していかないと、国内の再編が進みません。小学校や公共施設の現場で起きてしまうのは、コストカットの議論です。本当の意味での新しい公共の場をつくるという議論になかなかなりません。まだ時間がかかります。フランスでは、小学校や集合住宅のコンペは、時間がかかりコストが見合わないので大手組織設計事務所や大御所建築家は手を出さず、若手や小さな事務所が時間をかけて地区の開発を行うといった住み分けが起きています。日本もそうあるべきですね。小学校を中心とした公共施設の再統合のようなことは時間をかけることができる小さな事務所が担う。で、大手組織を経営的に成り立たせるためには1,000億クラスのプロジェクトが必要です。しかしそのようなプロジェクトは国内にはほとんどありません。国内の10億、20億のプロジェクトに競合が起きる状況にある今、海外進出という大きな道筋をつけないと、国内再編も進まないのではないでしょうか。

川原

川原――技術者にとっては厳しい状況です。特にインダストリアル系の製造業はグローバルな生産体制が構築され、日本に技術者が残れないという状況になりつつあります。世界に名を知られる家電メーカー各社に代表される日本の製造業のトップの方々は、国内は統廃合だ、大量の施設をどうまとめて有効活用するかがテーマだといっています。そうした課題を解決するための、われわれのノウハウを少し開示しますと、ホテル業界にMC(マネージメントコントラクト)という手法があります。施設を所有せず、借りずに事業ノウハウと総支配人を送り込んで、現地法人を活用してホテルを運営するというスキームです。マリオットやヒルトンなどに代表されるグローバルホテル企業では主流となっている方法です。で、日本企業が頭となって製造業版MC方式のようなことが実現できないか。メキシコや東南アジア、インドなどに拠点を置きつつ現地の有力者に施設を持たせて従業員を雇わせる代わりに、日本のノウハウや施設のつくり方、資料のそろえ方などを共有し、重要なファクターを担う人は日本から送り込むのです。まだ実現はしていませんが、今後は統廃合を通じて施設を有効活用していくか、海外へは日本のノウハウを日本に留めた上で海外進出するやり方はどうかという2つの方向性で製造業は悩んでいます。これがわれわれがいま携わっている先端の事業の状況です。

地域ニーズの掘り出しと組み合わせ(素材と料理)
中尾

中尾――地域ニーズというものはその場のことだけではなく、もう一歩先を見据える必要があります。先ほどから話題にあがっているPRE、行政が保有する施設の活用では、民間あるいは公共同士を組み合わせるといった方法論は有効かと思います。特に東京以外の地方都市では、容積率という論点はもはや主要ではなく、さまざまな用途を数珠つなぎにして有機的なつながりをいかにつくれるかというのがポイントです。たとえば近江町市場の事例では、子育て支援施設が3階に入居しています。周辺の方々からの、買い物に来る中で利用できる子育ての施設が必要だという議論を受け、実現に至ったものです。ただパッケージとして海外進出を行い、国内の溢れている人をどう救うのかという議論がありましたが、地方の建設業の方が一緒になって行くのは現実的に難しいのではないかと感じます。



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