PROPS プロトーク [第2回] 開発・オペレーション|interview 川原秀仁

レビュー/再録


2012年12月9日(日) に開催された「PROPS プロトーク [第2回] 開発・オペレーション」の、川原秀仁さんへのトーク終了後インタビューの文字起こしです。

川原秀仁 聞き手:山道雄太

――本日は面白い話をお聞かせ頂き、ありがとうございました。川原さんは、「クライアント目線で見る建設不動産プロジェクトの目線」「山下PMCのプロジェクト」に続き3回目のご登壇。過去2回はかなり具体的な話をされていたのに対し、今回は「開発・オペレーション」という抽象的なテーマでお話をお願いしました。いかがだったでしょうか?

川原

われわれはこの分野の一番先端で仕事をしているので、むしろ守秘義務の観点から具体的な話ではなく、抽象的な話にさせてもらいました。
 

――今回は、建築・不動産実務者ではなく、一般の方も多くいらしたのが、これまでとは違う点でした。そういった方々へ「開発・オペレーション」という話をされる際に、どのような心構えをされていましたか?

川原

できるだけわかりやすく、具体例を入れて話をするようにしました。
 

――PROPSというイベントは、建築業界からも不動産業界からも珍しいイベントだと思っているのですが、こういったイベントに対しどのようなご感想をお持ちですか?

川原

もっとネットワーキングするべきだと思います。もっと別の業界、例えばICT企業、製造業、医薬・医療、学校法人といったところにネットワーキングすることで、新たな事業創造、中間に眠っているものを見つけられるのではないかと思います。われわれはそこを生業にしようと思っており、実際に全体の業務の3割ぐらいはそうした業界との事業となっています。もちろん建築・不動産の人が中心でいいのですが、総合大学のように、横とうまくつながっていくといいのではないかと思います。
 

――建築分野が総合的な視点を担える可能性が充分あるということでしょうか。

川原

あります。いま、イニシアチブをとっている人がいないわけです。だからみんなにチャンスがある。複合的自由が到来しているんです。そのなかで「誰が最初にイニシアチブをとるの」っていうことですよね。そこにわれわれがいてもいいんじゃないのと思うんです。
 

――その話が、最後の話とつながってくるということですね。
実際に横断的な実践ということで、近しいながらも距離のある、組織設計事務所やアトリエ事務所の方と普段お話されることはあるのでしょうか?

川原

結構ありますよ。私も広くいろんなお付き合いがありますので。一番多いのはゼネコンの方々ですが、いろいろな業種の発注者、設計事務所、そして他のプレイヤー、たとえばICTのプログラマーといった方々とお付き合いもあるので、そういった面でもう少し違う世界が組み込めるんじゃないかって常々思っています。
 

――そういった、前線での協働の際に、今回PROPSでお話されたようなお互いのビジョンを話し合ったり、お互いの手の内を見せ合うといったことはあるのでしょうか?

川原

あります。例えばデータセンターなどを構築するときのことを考えてみてください。ICT側の人たちと建設側の人たちでは、全く文化も、言語も、知識も技術も違い、分断されているんですよ。でも、統合すればいいものが出来ることは目に見えています。ICT側をソリューションしている人たちとネットワーキングして、コラボレーションして、新たなトランスフォーメーションを生むことができないかということを模索しています。
 

――そうした場面では、ビジョンも同時に語られているのですか?

川原

ええ、語りますね。
 

――今日のこの場でやられたことは、普段やっていることの体現だったわけですね。

川原

それを、ある程度普遍的な言葉に変えて言ったつもりです。
 

――今回この場には、バブル以降の方々が多かったと思いますが、川原さんが開発に向かわれた動機はバブル破綻にあるわけですよね……。

川原

もともと無茶苦茶な後付け的な事業計画でやったことに対して、それでも成り立つと信じていた日本人がたくさんいたわけですよね。そういうのは幻想だったとわかる時代がやってきて、本来あるべき、地に足のついた世界を構築しなければ意味がないと思ったのが、マネジメントの世界に来た大きな理由の1つです。
96年に金融ビッグバンがあり、日本は絶対変わると思いました。事業形態が変わるはず。なのにいつまでも設計だけ、というようなパーシャルなソリューションをやっていていいのだろうか、という問題意識を持っていたんです。
 

――僕ら2000年代から建築を勉強し始めた人たちは、コンストラクション・マネジメント(CM)という言葉をよく聞いてきてるので、淀みなく飲み込める立場にいるとは思います。このコンストラクション・マネジメントという仕事は、いま完成に近づいていっているのでしょうか?

川原

国内の合理的な生産システムへとカスタマイズするという意味では、うちの会社の技術は、かなり完成品に近づいていると思います。ただ、もっと違う方面の考え方や解釈手法を取り入れられないかと考えているわけです。
だから、生産開発手法で、最初から企画があって、基本設計があって、実施設計があって、発注があって、工事があって、という順列系ではなく、もう少しワープできるもの、フラットにできるもの、コンカレントにできるもの、そういったものを何とか取り込むことができないか日夜考えています。
われわれは、コンストラクション・マネジメントという枠組み、つまり建築だけの世界をソリューションするというところに閉じこもっていたくないので、いろいろな業種とのネットワーキングから生まれる新たな事業創造のフレームワークやプログラミングに注力したいんです。そんなこと誰も考えていません、他の会社の人は。
 

――本編中に、これから日本を売り出すときに武器になるものはコンテンツ的というか、クールジャパン的なものというお話がありましたよね。

川原

日本が得意とする3つの分野をあげるとすれば、最上位に「日本の魅力発揮」があり、その下に「健康長寿」「低炭素革命および環境配慮・強靭化」という2要素が来る。これをなんとか、われわれもノウハウとしてプログラミング出来るようにしたいですね。他には財務会計という日本があまり得意でない分野を融合し、技術ノウハウやソリューションノウハウというものを育んで、他社と差別化を図り、ブルーオーシャンを見出していこうとも思っています。
 

――日本の強みは人間性やチームワークという発言もありました。そのベースにあるのは民族性と日本のピラミッドストラクチャー型の強い組織構造ということでした。そのピラミッドストラクチャーとは、日本人以外の人たちの中でも構築可能なのでしょうか?

川原

上手く伝えれば可能だと思う。伝え方が重要。やはり処方箋と同じで、自己治癒を促すような薬はなかなか効いていかないですよね。だからお医者さんに対しても、患者さんに対しても、その処方箋をきちんと伝えないと完治が難しい。それと同じで、教育システムというか、育むためのシステムは時間がかかるけど、そういうのがあったら完成するんじゃないかなと感じたりします。
そういうものがないと絶対に、何十年かけても海外には定着しないものだと思います。
 

――海外進出を考えた時にまずすべきは、構造を敷衍することで、その次にコンテンツの中身を出して行き、差異化を図ってゆくというわけですね。

川原

海外進出を視野に入れ、日本の強みが何かと考えてみると、たとえば海外のブログなどでは日本の人間性、親切さ、よりよいものを誰もが想像しようとすること、ホスピタリティ、契約に対するおおらかさといったことが強みとして挙げられています。海外からは、厳しい枠組みを越えてでもこのような部分を取り入れたいと、前向きに捉えられているのです。
 

――今日の話では、藤村さんは川原さんと対比されるようにお話しされている部分もありましたが、言ってることは非常に似ているのではないかと思いました。お2人ともベースは構造にあると考えつつ、藤村さんは公共の中ではコンストラクション・マネジメントのような仕組みはできていないので、その構造を形成する処方箋を確立させようとしているところだと。一方で川原さんのように、コンストラクション・マネジメントの技術が成熟しつつある領域では、一定の信頼の置ける構造があるので、コンテンツの差異が勝負になるのだと思いました。

川原

処方箋というか、教え方ですよね。浸透のさせ方が次のステージだと思います。
 

――そういった浸透のさせ方、川原さんにとっては海外の現地の方々、藤村さんにとっては地域の住民なわけですが、そこでのメソッドの共有も今後ありうるのかもしれませんね。
不動産実務クラスタ交流会からPROPSへと、形を変えつつもイベントを行ってきているわけですが、何かご意見があれば伺わせて頂けますか。

川原

ぜひ定着させるべきですよ。本来的に求められていること、多くの人々が飢えていることなのではないでしょうか。いままでセクショナリズムで、大学もそうですが、学科ごとにセクショナリズムがあったり、国もそう、産業の間でセクショナリズムがあったり、そして公共もそう。そういうのがあって、それが非関税障壁のような障壁につながっているわけですよね。だから、そういったものを上手く融合できる、ネットワーキングできるという会を、ぜひ次のステージにアップさせ、広げられることを願っています。そういう思いもあり、ご協力させていただいているつもりです。

――オープンなイベントでありながら、企業の方に来ていただけるのがPROPSの強みだと思うのですが、企業の方にご登壇していただくにあたって一番障壁となることとは何でしょう。

川原

やはり、普段目の当たりにしている業務のエッセンスを、どう守秘義務を守りながら伝えていくかということですね。たとえば設計業務ならば成果物を見せるという方法で伝えやすいのですが、我々の場合は業務の実相を素直に伝えるとノウハウを漏らすことになってしまうので。

――MCの話とかまさにそういった内容でした。ですが、そういった最前線ギリギリの話を聞けるのがとても面白いと思います。
PROPSを経て、川原さんご自身の中で意義のあったことはなんでしょうか。

川原

学生のみなさん、社会の若いみなさんも、そういう問題意識が芽生えているんだなとわかったことが、私にとって一番の収穫です。みんながみんな「建築家になりたい! デザインがいい! こういうのじゃないといやだ!」というベクトルを持っていた時代から、非常に多様化した社会が生まれて来たのだなとわかったことで充分です。

――これからも何らかの形でご協力頂ければと思いますので、よろしくお願いします。本日はありがとうございました。